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3. 雨が降り出す前に
窓の外は重くたちこめた黒い雲。
少し前に一度雨はあがったが、また降り出そうという気配だ。
空気は湿ったままで、もう二度と太陽が顔を出さないかのような――。
と、突然、目の前が暗くなり、ふと三蔵の意識が浮上する。
いや、いままでも眠っていたわけではない。
ただ、己の思考に没頭して、周囲のことなどなにも見えていなかった。
だから小猿が近づいてきたことも、手で目を覆われるまで気がつかなかった。
普段はあんなに煩い気配が、いまはなりを潜めているのもまた原因の一端ではあるのだろうが。
「外は見ないで」
と、微かに掠れたような、小さな声が聞こえてきた。
いつも元気な小猿にしては珍しいことだ、と頭の片隅をそんな考えが過ぎるが、なにかを考えることがひどく億劫になっていた。
なので、特にその違和感を突き詰めることなく、また己の思考に沈みこもうとするが。
「俺だけを見て」
目から手が外された。代わりに頬を両手で包まれるようにされ、ゆっくりと顔の向きを変えられる。
声の主――悟空の方へ。
大きな金色の目が三蔵を見つめる。
明るい、眩いばかりの――太陽。
こんなところにあったのか――……と不思議と腑に落ちる感覚がする。
と。
「なにをしてもいいよ。滅茶苦茶にしてもいい。だから――もう、他のものは見ないで」
悟空がふわりと抱きついてきた。
普段であれば柔らかく体を預けてくるのだが、いま、その体は硬く強張っている。
かかる声をといい――緊張しているのだろうか。
なにに対して――三蔵に対して。
ふっ、と三蔵は短く息を吐き出した。
触れているところから、温かさが伝わってくる。
まるで日差しから受ける温かさのように。
三蔵は無言で悟空を抱えあげると、寝室に向かって歩き出した。
「……え?」
と、悟空が、なんだか間の抜けたような声をあげた。
「ちょ、ちょっと、待った、三蔵」
「なんだ? 好きにしていいんだろ?」
「いや。それはそうなんだけど、でも」
「でもはナシだ」
「そういうんじゃなくて、えっと、これ……はないんじゃないかな」
「これ?」
「運び方」
三蔵の肩のうえで悟空が情けな気な声をあげる。
というのも、悟空は三蔵の肩に担がれて、まるで荷物かなにかのように運ばれていた。
『なにをしてもいいよ』の答えで寝室に運ぶ方法として、これは確かにどうだろうというところだ。
「これが一番楽なんだが……」
言いながら立ち止まり、三蔵は悟空を肩から降ろすと、今度は両手に抱きかかえるようにする。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
「ちょ……っ。これはヤダ」
悟空の顔が赤く染まる。
「なんでだ? 寝室への運び方といったらこういうのだろ?」
「いや、さすがにこれは恥ずかしいというか――ってより、俺、歩けるから」
「却下」
言いつつ、三蔵は悟空を両手に抱きかかえたまま寝室に向かう。
恥じらい――などというものがこの小猿にあったとは。
しかも。
「悪くねぇ」
独り言のように呟きながら、寝室の扉を開ける。
「……三蔵、なんか変わった?」
寝台に降ろすと、悟空が少し拗ねたような表情で問いかけてきた。
「別になにも変わっちゃいねぇよ」
いまでも雨は苦手だ。
だが、雨が降り出しても、こんな様子が見られるのならば――悪くはない。
三蔵は悟空に覆いかぶさっていった。